Guarneri trial 4
取り組んでいるガルネリ「ビュータン」には、特徴的な造形で音響効果とも関わりが深いものが
幾つかある。
先ずはなんといってもガルネリ最大の特徴であるボディーの小ささと、C部の長さである。
長さも幅も、ストラディバリの標準的なモデル(PG、G、Pモデル)などよりも一回り小さい
数値である。
小さなボディーに、同じアーチを付けると、橋の原理と同じで必然的に板が硬くなり、
ボディーモードの周波数を上げるとともに 、デシベルを下げる作用が働く。
しかし、「ビュータン」のアーチはとても特異だ。
つと裏板は、アーチの頂点が平らで、放射方向に角ができ、
縦方向にはテントのように三角に突っ張っている。
このアーチは、後期のガルネリがブレーシャ派から強く影響を受けていると、
多くの研究家が語る時に必ず取り上げられる特徴である。
この特異なアーチは、当初コピーするつもりはなかったのだが、
色々と調べていくうちに、C4モードの動きと呼応していることが解ってきた。
C4モードは、アーチがなだらかなストラディバリではデシベルが低すぎて、
グラフには殆ど現れないのである。
C4モードがガルネリ独特の音の性格を決めている、重要なファクターであることは確かで、
恐らくこの特異なアーチが、C4モードのデシベルを押し上げているのではないかと睨み、
今回採用することにした。
そして、もう一つガルネリの大きな特徴は、F字孔のデザインである。
上下の丸だけを決めると後はフリーハンドで切られているF字孔は、
楽器ごとに形状が全く違うので、コンセプトの共通点を見つけるのは困難だが、
ストラディバリと比べると、一つ大きな違いがある。
それは、垂直方向に切り取っている長さである。(純粋なF字孔の長さではない)
ストラディバリは全ての楽器が、70mm切り取っているのに対して、
ガルネリは73mm~75mm切り取っている。
5mmというのはバイオリンにとっては大きな数値。
なぜそうなっているかは、ディアパソンに対しての下のコーナーの距離や、
F字孔の形などなど複数の要因があるため、説明は省くが、
これは無視できないものである。
そして実際に、アメリカの著名職人・研究家ジグ・マントービッチ氏が
F字孔と表板の動きとの関係に言及しているが、
その内容と、「ビュータン」のA0モードのデシベルの異常な高さは、合致するのである。
今回はF字孔の切り取る長さに関る部分をそのまま残し、細部だけを綺麗に整えた。
この後も、厚みのバランスやバスバーまで、同じコンセプトで進めていった。
また、スクロールやコーナーの処理など、音とは直接関係はないがガルネリの特徴的な造形も、
アイコンとして採用してみた。
果たして目論見が上手くいくのか。
エキサイティングな日々が続いている。