バイオリンは弦の巻き方で音が変わるのか
クレモナで音響研究に携わっている関係で、様々なご質問を受けるのですが、最近「弦の巻き方を変えると音が変わるのですか?」というご質問を多く受けます。どうやら、日本では「ペグで弦を結んで短く切り、巻く回数を減らすとテンションが変わり音が変わる」といった言説が有るようです。結論から言いますと、変わりません!バイオリンの構造上、弦は駒から枕木までの両端固定の振動です。その場合、弦の周波数とテンションの関係は次の式で表されます。
周波数をf、弦長をL、テンションをT、線密度をσとする時
この式から、同じチューニングで弦長も決まっていると、テンションは線密度「弦の種類」以外では変わらない、という事です。ですので、弦を固定している枕木の「外」であるペグでの弦の巻き方や長さを変えても、影響は無いのです。 また現代の振動シュミレーションでは、ネック部分の微細な振動の変化は音にほとんど影響を及ぼしていない事が観測されます。一方で、弦の種類を変えると、弦はそれぞれに線密度が違いますので、テンションが大きく変わります。もし、弦のテンションや音を変えたいと思われた方は、弦の種類を変えてみる事をお勧めいたします。
一方で、ギター業界ではこのような結んで短くして巻く方法を通称「マーティン巻き」と呼んでいます。
これはギターブランドのマーティンが、出荷時にこの巻き方で出荷している事からそう呼ばれています。
ギター業界ではこの巻き方の利点を「チューニングがしやすい」「チューニングの安定が良い」と言われています。これについては一考の価値があると思います。
普通に穴を通して巻く場合、弦のそれぞれの巻きに摩擦力が分散されて止まっている状態ですね。ですので、穴から弦が抜けていてもしっかり止まっている事が良くあります。 巻き回数が減ると一巻きに掛かる摩擦係数が増す分、チューニング中に回した時にすぐに分散
され安定して止まる事が考えられます。しかし、違いはあくまで極々微細だとは思いますので、気持ちの問題と捉える方が良いと思っています。
弦楽器はとてもシンプルな構造にも関わらず、複雑な変化が起きる為、様々な言説が有ります。
気になる事が有りましたら、どうぞお気軽に製作家に聞いて見て下さい。