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Shotaro Nishimura

パガニーニが愛したレシピ ~故郷の味は脳みそ入りラヴィオリ~

 すっかりイタリアも秋めいてきました。
芸術の秋や食欲の秋とよく言いますが、それは開放的な夏から少しずつ寒くなるにつれて、感覚が内面へと向かい、繊細になっていくからでしょうか。
同じ感性を刺激する芸術と美食は相性が良く、美食で知られた芸術家は数多くいます。音楽家では、美食家で知られた作曲家のロッシーニは、パリで食通が集まるサロンを開き、彼のお気に入りであったフォアグラをのせたステーキのレシピには「ロッシーニ風」と彼の名前が冠されています。

 バイオリン史上初めての国際的な大スターとなったパガニーニもその御多分に漏れず、食にまつわるエピソードが多く残っています。
当時の大スターであったパガニーニは、1828年にコンサートで訪れたウィーンでは「パガニーニブーム」が起き、その名を冠したコース料理がレストランに登場し、パガニーニスタイルと呼ばれた髪型やパガニーニと同じ格好をした女性を連れて、食事やカフェをする事が流行る程でした。その時に生まれた菓子パンは今でも「パガニーニ」と呼ばれて親しまれています。
 そんな食欲まで刺激する大スターのパガニーニは、以前の記事でもふれたように手紙マニアでも知られ、膨大な数の手紙が残っていますが、その中には食について言及している手紙が幾つか残っています。
1816年パガニーニが34歳の時に母親に宛てた手紙では、愛情たっぷりに、家族が変わらず母親のおいしい手料理で満たされた食卓を囲っている事を願う手紙を書いています。また、1820年にナポリからジェノバにいる友人に書かれた手紙には、母親が作る「冷めると刺したスプーンが倒れないほど濃厚なミネストローネ」を語り、亡くなる前年1839年のマルセイユで書かれた手紙には「半生のステーキと頭痛が消える上等なポルトワイン」を欲していると書いています。
コンサートでヨーロッパ中を飛び回る生活をおくったパガニーニにとって、食事は故郷や母や友人を思いだし、また疲れや病の苦痛を和らげてくれる楽しみであったようです。
 そんな中でも、彼の食へのこだわりが一番詰まった手紙が、アメリカ国会図書館に保管されている、1836年に友人のルイージ・ジェルミに宛てた手紙です。そこには、彼の故郷ジェノヴァの郷土料理「raieü cou tuccuジェノバ風ミートソースのラヴィオリ」のレシピを、情感たっぷりに書き残しています。 それはこんなレシピです。

パガニーニのレシピが書かれた手紙

 “”ソースを作るためには、小麦粉1ポンド半に対して、良質な赤身の牛肉2ポンドが必要である。フライパンにバターを入れ、次に細かく刻んだ玉ねぎを少量入れて、少し焼く。そこに牛肉を入れ、少し色がつくまで焼く。濃厚なソースを作るには、小麦粉を数つまみに分けて取り、肉汁に少しずつ振り入れて焼き色をつける。ホールトマトを数個取り水でほぐし、フライパンの小麦粉に少しづつ注いでよく混ぜ、溶かす。最後に細かく刻んで叩いた乾燥キノコを加えて煮込めば、ミートソースの出来上がり。
さて、次はパスタ。パスタは卵抜きの生地で仕上げる。その時にパスタに塩を少し入れると、粘りが出る。
さて、中に詰める具材。肉と同じフライパンを使って、先ほどのソースで赤身の仔牛(1/2ポンド)を焼き、取り出して刻み潰す。「仔牛の脳みそ」は水に浸して加熱し、脳みそを覆っている皮を取り除き、刻んでよく叩き、別に用意した太めのサルシッチャ(イタリアンソーセージ)も皮を取り除き、刻んでよく叩く。ニースではボラージュと呼ばれる香草を適量取り、茹でて、よく絞り、上記と同様に潰す。

卵を3つ、小麦粉1.5ポンドに対して十分な量を取る。よく溶いて、上記で準備した材料を加え、卵にパルメザンチーズを少々加えながら、もう一度潰すしながらよく練る。これが中に詰める具材である。
「仔牛の脳みそ」の代わりに雄鶏を使うと繊細な味に仕上がる。

ラビオリは、パスタを少し濡らして切り、蓋をして1時間置くと薄いシート状にすることが出来る。“”

 如何でしょうか。 詳細に書かれており、パガニーニのこだわり様が伝わってきますね。ジェノヴァ風ミートソースの特徴は、挽肉ではなく、固まり肉から作るのが特徴です。 そして何より、「仔牛の脳みそ」がかなりのインパクトです。意外に思われるかもしれませんが、イタリアでは脳みそは一般に使われる食材で、スーパーでも売っています。特に北イタリアでは、医学用語では脳みそを男性名詞でCERVELLOと表記しますが、食用は女性名詞のCERVELLAと表記し、食材である事を強調する程です。
raieü cou tuccuはジェノバの郷土料理ですが、今ではこのレシピは「Ravioli di Paganiniパガニーニのラヴィオリ」としても知られています。勿論、脳みそ無しで作る事が殆どです。

このレシピ、試してみませんか?

以前のパガニーニの記事はこちらです。

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Tue ‒ Thu: 09am ‒ 07pm
Fri ‒ Mon: 09am ‒ 05pm

Adults: $25
Children & Students free

673 12 Constitution Lane Massillon
781-562-9355, 781-727-6090