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Shotaro Nishimura

コレクターの才能

 バイオリン製作の歴史において、様々な天才がいます。創成期のバイオリンを一気に高級な工芸品へと昇華したアンドレア・アマティに始まり、チェロを先駆けて現代のサイズに縮めたフランチェスコ・ルジェーリ、もはや説明など要らないストラディヴァリ、それまでの造形感覚を覆したガルネリ・デル・ジェスなど、思いつく限りでも枚挙にいとまがありません。そんな中でも、天才が連なるバイオリン史を語る上で避けては通れない人物がいます。

それが、史上初のバイオリンコレクターにして、史上最大のコレクターであるコッツィオ・ディ・サラブエ伯爵です。先日、彼が正に天才コレクターであると深く思い知らされることになりました。

コッツィオ伯爵の最大の功績は、若干19歳でストラディヴァリ家の末子パオロ・ストラディヴァリから、売れ残っていたストラディヴァリの楽器数台(信じられないかもしれませんが、楽器が沢山売れ残っていたのです)と道具一式を買い取ったことです。このおかげで、現在でもストラディヴァリの道具や型など1000点以上がクレモナの博物館に保管されています。

また、もう一つの功績として、彼が手にした楽器は、全て詳細に記述されており、楽器の鑑定から当時のコンディションまで、非常に貴重な資料となっています。しかし、その資料の数があまりにも膨大で、かつ当時の筆記体と地方独特の言い回しが難解であるため、近年はあまり鑑みられることが少なくなっていました。


そんな折、先日、まだ未公開であった資料の公開があり見に行ったところ、公開された資料の中に、一際目を引く資料がありました。それは、楽器のF字孔とアウトラインが描かれた紙でした。その紙をよく見ると、紙の左右に3つに切り込みを入れて楽器の表面に沿わせ、水で濡らして上から押さえ、角の線ができた所を針でなぞり、そこにインクを入れて描いていたのです。

さらに驚くべきことに、紙の裏にもF字孔が描かれていました。これは修理で表板を剥がしたときに内側からも同じようにF字孔をなぞり、表面と裏側でどう違うかが比べられるようになっていたのです。

字孔は立体的な面に切られるため、写真や3D技術が発達した現代でも正確に形を写すことがとても困難です。それを250年前、初めてバイオリンをコレクションした人物が、この正確さで記録を残していたことに驚愕しました。そして、文字で書き込まれた特徴も、まさにバイオリン製作家と同じ視点で記述されていました。ここまでの資料は、歴史上どの製作家も残していません。ただ収集するだけでなく、将来の製作家の糧となるものを残していた、まさに天才コレクターなのでした。

 こういった一次資料に直接出会え、また製作から逃れられなくなる。バイオリンに取り憑かれた者が、また後世の者を引き込んで行く、これが本場の磁場なのだと少し怖くなりました。

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