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Shotaro Nishimura 西村翔太郎

日本が誇る名演奏家へ ―Guarneri del Gesu 1741″Vieuxtemps” model

このたび、日本を代表するバイオリニストにして、数々のスターを生み出して来た名伯楽であられる徳永二男氏のために、バイオリンを製作するという大変光栄な機会をいただきました。
モデルとしたのは、数あるガルネリ・デル・ジェスの中でも、もっとも名演奏家たちに愛されてきた名器、1741年”ビュータン”。

この楽器が初めて歴史上に登場するのは、史上初にして史上最大の楽器コレクターであるコッツィオ・ディ・サラブーエ伯爵の手記です。
彼はこのバイオリンについて、

「横板が高過ぎる。木が強すぎる為に音量が小さい」

と、とても低い評価を下しています。
しかしその後、バロック仕様から、より強いモダン仕様へと変更された後、この楽器の性能と見事に合致した様です。
コッツィオ伯爵から数人の楽器商の手を経由した後、その名が示す様に、名演奏家でバイオリン協奏曲の名曲でも知られるアンリ・ビュータンが愛用しました。ビュータンの死後、盛大に行われた葬式には、愛弟子であったウジェーヌ・イザイがこの楽器を黒いクッションの上に載せて棺の後ろを歩いた記録が残されています。

その後、この楽器をイザイが受け継ぎます。
そしてイギリスのバイオリニスト、フィリップ・ニューマン、ユーディ・メニューインと続きます。メニューインは書簡の中で、彼が所有していたストラディバリ1714年Soilよりも素晴らしいと書き残しています。

現代ではコレクターの手を渡り歩きながら、ジョシュア・ベル、そしてアン・アキコ・マイヤースと貸与され、今ではアン・アキコ・マイヤースの夫が買い取り、アン・アキコ・マイヤースへの永久貸与という形をとっています。

名演奏家達に愛されてきたガルネリ・デル・ジェスの楽器ですが、ここまで名演奏家に受け継がれて来た楽器は1741年ビュータンだけです。正に音楽史そのものと共に歩んできた存在です。

今回の製作では、外形や寸法をなぞるだけのコピーではなく、マイクロCTスキャンやラディエーション測定によって得られたデータをもとに、材の音響的性能から選び抜き、形状を的確にコントロールする事により、生み出す音響的特性に至るまで、可能な限り忠実に再現することを目指しました。
その結果、表板と裏板はオリジナルと全く同じ重さ、そして特徴的な共振周波数のA 0モードとC4モードの高いピークの再現にも成功しています。


完成後、徳永氏に試奏していただいた際、
弓を置いたその瞬間から、自然に音楽が立ち上がり、すぐに喜んでいただけたことは、何よりも忘れがたい出来事です。
言葉よりも先に、楽器そのものが証明してくれた──そんな感覚がありました。
名演奏家は、時代を代表する名器を複数所有しながら、それらと共に音楽史を紡いでいきます。その連なりの中に、今回製作したこの楽器が、徳永氏の所有する楽器のひとつとして加わることを思うと、製作者としてこれ以上の名誉はありません。

この楽器が、これから先の舞台で、どのような音楽を生み、どのような時間を刻んでいくのか。
その歩みを、静かに、しかし深い感謝とともに見守っていきたいと思います。

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Tue ‒ Thu: 09am ‒ 07pm
Fri ‒ Mon: 09am ‒ 05pm

Adults: $25
Children & Students free

673 12 Constitution Lane Massillon
781-562-9355, 781-727-6090