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楽器が白木で仕上がると、直ぐにニス塗りに入ると思う方も多いだろうか。
実はその前にとても大切な作業がある。  下地の処理である。 英語ではGroundと呼ばれる。
下地の処理には様々な目的がある。

・木を美しく染め上げ、ニス塗装後の美観を向上させる為
・木の反射率・屈折率を向上させる為
・杢目を綺麗に浮かび上がらせる為
・ニスの木への浸潤を防ぐ為
・木の硬化を期待する為、etc…

製作家によって目的も方法も様々だ。下地の処理を殆どしない製作家もいる。
ニスは製作家ごとに様々なレシピがあり、そのレシピは秘密にされることも多く、大っぴらには語られることは少ないが、実は下地の処理についても、製作家は秘密にすることが多い。
寧ろ、下地の処理について尋ねる事の方が、タブー視されることもある。
かく言う私も、この下地のレシピに行く着くのにかなりの時間を要したため、あまり気軽に他言することはない。

ではクレモナの銘器たちはどうか。それは、はっきりとは解っていない。
同じストラディバリでも、木がしっかり染まっている楽器もあれば、ほとんど染まっていないものもある。 比較的初期にニスが禿げたであろう部分だけ木が染まっていない事もあれば、ニスがないところも同じ色に染まっていることもある。
楽器ごとに下地の処理が違っていたのかもしれないし、下地の処理は殆どされておらず、楽器それぞれの経年変化によって違いが生まれているのかもしれない。
科学的な解析をしても、はっきりとした断定できる成分は今のところ何も検出されていない。
つまり何も解っていないのである。
しかし、銘器たちに共通して言えることは、しっかり杢目が染まっていても、
屈折率が高く光の角度によって大きく変化し、道管や髄線などが汚れておらず、
反射率が高くとても綺麗なことだ。

私のレシピは3日程掛けて施される。
木の中で起きていることをイメージしながら。銘器への憧れを抱きながら。

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西村翔太郎

1983年 京都府に生まれ、9歳より長崎県で育つ。吹奏楽でトランペットを演奏していたことから楽器製作を志す。偶然テレビで見たオイストラフのドキュメンタリー番組に影響を受け、ヴァイオリンに興味を持つ。国内外の製作家を取材するなど製作家への道を模索しながら、高校時代に独学で2本のヴァイオリンを作り上げる。2002年 ガリンベルティを筆頭とするミラノ派のスタイルへの憧れから、ミラノ市立ヴァイオリン製作学校に入学。製作をパオラ・ヴェッキオ、ジョルジョ・カッシアーニ両氏に、ニス塗装技術をマルコ・イメール・ピッチノッティ氏に師事。2006年 クレモナに移住。クレモナトリエンナーレで最高位を獲得したダヴィデ・ソーラ氏のヴァイオリンに感銘を受け、この年から同氏に師事。2010年イタリア国内弦楽器製作コンクール ヴァイオリン部門で優勝と同時にヴィオラ部門で第3位受賞。2014年シンガポールにて、政府関係者や各国大使の前で自身が製作したカルテットでのコンサートを催す。
2018年クレモナバイオリン博物館、音響・化学研究所によるANIMAプロジェクトの主要研究員を務める。
2018年よりマレーシア・コタキナバルにて、ボランティア活動として子供達の楽器の修理やカンファレンスを行う。
CultralViolinMakingCremona会員
関西弦楽器製作者協会会員

主な楽器使用者

アレクサンダー・スプテル氏
(ソリスト・元SSOコンサートマスター)
森下幸次 氏 
(ソリスト・大阪交響楽団コンサートマスター)
木村正貴 氏 
(東京交響楽団フォアシュピーラー)
立木茂 氏  
(ビオリスト・弦楽器指導者協会理事長)