樹の命
チェロを製作中、常に後ろめたさが付きまとう。
バイオリンでも感じるが、チェロは視覚的でより直接的に迫ってくる。
樹の命を奪っているという感覚。
チェロは楽器用材として製材された段階で、総量15~20kg程になる。
それをひたすら削り込んでいき、最終的には4kgに満たない重量になる。
その大半を削り取って、捨てていくことになる。
最後の宮大工と呼ばれ、法隆寺・薬師寺の修繕・増築に携わった、
棟梁・西岡常一。文句無し日本一の大工だ。
法隆寺の宮大工の棟梁には1300年受け継がれてきた「口伝」があるそうだ。
それは、組織運営から仕事への心構え、そして木の組み方まで多岐にわたる。
しかし全ての事は、いかに樹と向き合い、組み上げた寺社を長く持たせるかに帰結する。
ひたすら口伝を守り抜き、 死ぬ間際まで自身が建てたものを見に行っていたそうだ。
物を作る人間は、作るときに少なからず何かを壊している。奪っている。
そこに真摯に向き合うとき、迫ってくる後ろめたさが「責任」を突きつけてくる。
それは一生付き纏う。
責任はイタリア語でResposabilita 語源はラテン語でRespondibilitas
本来は答える・応えるという意味だ。
樹が突きつけてくるものに、常に応えるように仕事をしていくこと。
これが責任なのだと、樹が教えてくれる。