whisper of the woods
木の声を聞く。
木の仕事に携わる人間が良く口にする言葉だ。
それはバイオリン職人も同じこと。
ならば声を聞いた後にどうするか。
声を聞き、その木の声に導かれるまま一心に彫るのが木彫家なのだろうか。
木の声から癖を見抜いて、「癖を活かす場所に配置する」と言ったのは、
日本一の宮大工と呼ばれた、西岡常一だ。
バイオリン職人にもいろいろな向き合い方があると思う。
私は機械を使わない。
アウトラインを切る時も、中世の時代から変わらない西洋鋸で切っていく。
この時から木のささやきが聞こえ出す。
「固い」「柔らかい」「硬さにむらがある」
荒削りをする頃には、はっきりと声が聞こえだす。
「やわらかく、癖がない」「中心部は詰まっているが、左右が強くねじれている」
その声を冷静に見つめる。
自分の求める「音」へと導いていくための、対話が始まる。
膨らみを決る。これは人間の側からの、木への提案だ。
そして内側を削り、Fを切る頃には、木との協議に入る。
厚みを0.1ミリ削っては、重さを量り、周波数を計り、
木からの返事を聞く。
対話が上手くいかないことのほうが殆どだ。
木は楽器になるために育ってきたわけではないからだ。
対話がまとまらないのであれば、そもそもの提案を変える必要がある。
躊躇なく膨らみをやり直し、バスバーを新しく作り直すことも稀ではない。
こうして、「音」という着地地点へと、木と共に探っていく。
木の声を聞くだけでは、そのつど出来上がる楽器が、声だけに左右されてしまう。
人間側の提案を押し付けるだけでは、木を生かせない。
「木の声を聞く」だけではいけない。
「木とせめぎ合う」