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木の声を聞く。木の仕事に携わる人間が良く口にする言葉だ。それはバイオリン職人も同じこと。ならば声を聞いた後にどうするか。声を聞き、その木の声に導かれるまま一心に彫るのが木彫家なのだろうか。木の声から癖を見抜いて、「癖を活かす場所に配置する」と言ったのは、日本一の宮大工と呼ばれた、西岡常一だ。バイオリン職人にもいろいろな向き合い方があると思う。私は機械を使わない。アウトラインを切る時も、中世の時代から変わらない西洋鋸で切っていく。この時から木のささやきが聞こえ出す。「固い」「柔らかい」「硬さにむらがある」荒削りをする頃には、はっきりと声が聞こえだす。 「やわらかく、癖がない」「中心部は詰まっているが、左右が強くねじれている」 その声を冷静に見つめる。自分の求める「音」へと導いていくための、対話が始まる。膨らみを決る。これは人間の側からの、木への提案だ。そして内側を削り、Fを切る頃には、木との協議に入る。 厚みを0.1ミリ削っては、重さを量り、周波数を計り、木からの返事を聞く。対話が上手くいかないことのほうが殆どだ。木は楽器になるために育ってきたわけではないからだ。対話がまとまらないのであれば、そもそもの提案を変える必要がある。躊躇なく膨らみをやり直し、バスバーを新しく作り直すことも稀ではない。こうして、「音」という着地地点へと、木と共に探っていく。木の声を聞くだけでは、そのつど出来上がる楽器が、声だけに左右されてしまう。人間側の提案を押し付けるだけでは、木を生かせない。 「木の声を聞く」だけではいけない。「木とせめぎ合う」

新しい小さめのビオラを設計。クワルテットを主な活動の場にしている方へのビオラなので、小さいながら、ビオラらしさ、深い音とパワーをどれだけ維持できるかが、落とし所。純粋に大きなビオラを縮小すればよいというものではなく、必要な弦長と、望むF字孔のサイズから、全体のバランスを整えていく作業が続く。雲形定規で引いたり、過去のモデルから一部を持ってきたり。描いては消して、また描いて。 今の時代、PC上でCADなどで進めていくのが普通だが、1/1サイズで、手で線を引いていくほうがより直感的で、手から出る無意識のブレが、良い結果をもたらすような気がして、いまだに不効率でも手で引いている。こうして設計をしていると、過去の製作家がいかに知恵を凝らし、美的感覚にも優れていたかを思い知らされる。「音楽のための道具」としての域を超えた、造形美への思いを感じる。ゆえに、普通「道具」とはアノニマスデザイン的評価や、デュオニソス的要素が強く出るものだが、作家性と機能の融合が重視されるバイオリンは、他の道具とは一線を画すのだろう。ここまで思いをめぐらした所で、しかし作る側は「音楽のための道具」であるということを忘れてはいけないと、自分を戒めた。航空機の設計者が、「尾翼の角度を4度変えても性能に変化がない。その時には美しいほうを選ぶ」と話していた。 ここに立脚していなければならない。

長くイタリアを離れて、沢山の人に触れ合い、いろいろな文化に接して、とても刺激的な日々を過ごし、自分の中の開放的な面がより前面に出ていた。しかし、こうして木を削り、木に触れ、木の香りをかぐと、本来の自分がゆっくりと戻ってくる。

音楽は国境を軽々と越えていく。しかし楽器の知識や魅力はなかなか広まらない。そこにストーリーが、ヒストリーがある物は、伝えるのにも時間がかかる。こちらから届けに行かねば、 グローバリズムとともに押し寄せる消費主義に、呑み込まれてしまう。

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